講演会に行く


   12月13日(土)

 御茶ノ水に着いたのがちょうど十二時だった。今日の講演会の場所を確認するために、いつも楽器店の並びを下らず、線路に沿った道を歩いて行く。ハガキの地図と見比べながら歩いていくと、ようやく大きなサイン・池坊の文字が見えてくる。ほんの数分間だけど、これで落ち着いた気分になった。講演会の開始まで、時間があるので神保町の方へ降りて見る。明治大学の校舎群があり、その下の公園の紅葉がキレイだ。カップルがベンチに座って弁当を食べている。そんなのを眺めて歩いていると、いつも通る小道に出てしまった。直ぐ大通りに出て、そこを横切ると東京古書会館に着いてしまった。古書展を覗くと、今日の古書展は古書、古書したものばかりで見るところが少ない。時間を気にしながら、何点か見つけたが精算するのが面倒なのであきらめる。一時まで二十分、元来た道を引き返しながら、急ぐ。講演会の会場、歩道から何段かの階段を上がって池坊お茶の水学院に入ると、畳敷きが飛び込んできた。鉄筋コンクリート造にもマッチした和風造りの立派な茶室があっていた。茶室じゃないのか、生花だから。六階の会場は、りっぱなホールである。受付を済まして中に入ると、まだ三割程度しかいない。年配の人たちが目に着く、それと女性、若い男性の姿はほとんど見なかった。お茶の水図書館創立60周年記念講演会、あとで展示を見て知ったのだが、以前は女性たちのための図書館だったようだ。そんなことも影響しているのだろうか。定刻から遅れて、理事長の挨拶、そして穂村弘さんの講演が始まった。「短歌の友人―短歌の読み方と詠み方」と題して、あらかじめに配布されている短歌について、短歌というものを割りとわかりやすい例を用いて説明・解説されていく。最初の方は理解できたが、あとになってくると感性の捉え方のような気がする。短歌には、データとか、商品名とか、現実とか必要なく、役にたたないもの・ことばが大事なようだ。穂村さんのしゃべるときの間の取り方が独特で、長めでもなく、短めでもなく、何だろうかターンタンとしている。短歌、学校で習った程度でわからないが、今日の講演で入りかけの雰囲気だけ教えて頂いた感じだ。何ケ月前に荻窪の某所で穂村さんを見たが、そのときも今日と同じで細目、細いパンツにスーツで決まっている、1年前の西荻ブックマークのトークのときに見た服装とは大分違っていて、おしゃれに写った。休憩のあと、黒岩比佐子さんの講演、「食育のススメ ―現代に通じる明治人の知恵」と題して、話をされた。村井弦斎石塚左玄を通じて、明治人がいかに食・洋食・中華を楽しみ、冷凍技術がない時代の保存法や品質の見分け方など。そのことが、今の時代に通じているのだ、食品偽装などなど。黒岩さんのブログは毎日見ているが、まだ書籍は第一作目の【音のない記憶 ―ろうあの天才写真家井上孝治の生涯―】を、この前読み終えたばかりで、【『食道楽』の人 村井弦斎】はまだ読んでいないので、村井弦斎が当時は夏目漱石よりもベストセラーの作家とか、小説を通して料理を取り入れていたなど、講演を聴いていて楽しかった。村井弦斎石塚左玄、そして『和歌食物本草』の歌・短歌なども紹介されて、これがなかなか良かった。レジメの中から一首ずつ載せておくことに。
村井弦斎「料理心得の歌」より
 小児には徳育よりも知育よりも 体育よりも食育が先き
石塚左玄「食養道歌」より
 春苦味(にがみ)夏は酢のもの秋辛味(からみ) 冬は脂肪(あぶら)と合点して食へ
『和歌食物本草』より
 茄子(なすび)こそ味わひ甘く寒のもの 冷えたる人は食すべからず
最後に食育基本法のことを話されたが、ここにライターとしてのポリシーがあるのかと思った。二度と過ちを繰り返しがないセカイを、そんなメッセージが心に響いて聞こえてきた。
休憩を挟んで、穂村さんと黒岩さんの対談「読書のたのしみ」と題してだったが、終始、古本の話題だった。私としては聞いていて面白かった。二人とも、仕事場は本の山がいくつもあり、大変な状況の様子。その現場を見てみたい気がした。対談が終わり、花束贈呈があり、閉会となった。講演会には、佐野繁次郎装丁本蒐集の西村さんを見たがほかに知った顔を見かけなかった。そうそう、入り口で一箱古本市のとき、同じテーブルにいた人と会った。エレベータに乗り合わせて、アレーといった表情でお互い顔を見合わせてしまった。講演会が終わって、三省堂(四階)を見て歩いた。新刊書店は、やっぱりいいなー、カラフルできらきら輝いていた。会社に年末の挨拶に来た年配の人がいて、本の話題を話していたら、三省堂の亀井は知り合い、小宮山書店の小宮山も知り合いと言っていたが、どの程度の知り合いだろうか。頃合を見て、ヒナタ屋に着たら満席に近い状態だった。Yさんも来て、田川律さんの料理を食べ、あれやこれや歓談して、Yさんと中央線に乗って帰る。 (モンガの西荻日記より)




 購入本
  《O・S》
   水原秋櫻子     【旅愁】琅玕洞
   徳川夢声     【親馬鹿十年】創元社
   河上徹太郎    【厳島閑談】新潮社