一度だけの人生

 購入本
  《N・O》
   山口昌男      【演ずる観客】白水社
   粟津則雄      【ヨハネの微笑】小沢書店
   柳田國男      【新編 柳田國男集 第一巻】筑摩書房
   林達夫       【林達夫著作集1】平凡社
   三宅勇三      【北欧バスの旅】春秋社



  《O・S》
   川島幸希      【英語教師 夏目漱石】新潮選書
   高見順       【天使の時間】雲井書店
   堀田善衛      【鬼無鬼島】新潮社
   堀田善衛      【後進国の未来像】新潮社
   井上靖       【燭台】講談社
   長与善郎      【わが心の遍歴】筑摩書房
   武田繁太郎     【風潮】筑摩書房
   田宮虎彦      【鷺】和光社
   中村真一郎     【永遠の処女】新潮社
   中野重治      【梨の花】新潮社
   福永武彦      【夜の三部作】講談社




 
    一度だけの人生    高見 順
 目をさますと虫がないている
 もう秋だと夜明けの暗さのなかで僕は思う


 誰にもくりかえされる感慨
 くりかえされる事実


 僕にとっては四十二回くりかえされる秋
 ああ くりかえされる人生


 僕の人生は僕にとっては一度だけの人生だが
 人生というものは秋の虫の声というようなくりかえしではないか


 それでいい
 くりかえされる感慨は軽くても事実は軽くない


 くりかえしの人生を自分だけの人生にすること
 するようにと無理に努めることなく自ずとそうなっているようにすること


 自分に言いきかす言葉の しかし 軽いことよ
 陳腐とはいえ不変の感慨の方がまだ重い


 その重さを胸の上に感じながら僕は呟く
 くりかえされる人生のなかの一度だけの人生


 薄暗い空がだんだん明るくなる
 物音とともに虫の声が聞こえなくなる


 虫の声が消えると
 くりかえされる人生のくりかえされる一日がはじまる